若手に薦める本ですが、初回はざっくりとした病態把握・全身管理の書籍でした。
今回は歯科の苦手分野筆頭、心電図!
できれば逃げたい心電図
歯髄炎の急患が来たので「よっしゃ抜髄するか」と思ったら、
「心臓?毎年健康診断で心電図がひっかかるよ。薬も貰ってる。丸い白いの。病名?何だったっけなぁ…」
冗談ではなく、こんな患者が山ほどいます。自分の体なんですから、もうちょい気を遣ってもいいんじゃないのと思いますがねぇ。
心電図見るのも久々だなぁと電極付けてはみたものの…あれ…なんか普通の波形とはちょっと違うんじゃないコレ…どう違うかってのもうまく説明できないけど何か形が違うよね。
えーどうしよう…とりあえず薬だけだして帰そうかな…でも簡単だからすぐ終わるって言っちゃったしなぁ…やっちゃおうかな…大丈夫だろ…スタッフも早くしろよって目で見てくるし…やっちゃっていい?…危ない?…どっち!?
生体情報モニタ
最近は開業医でも生体情報モニタ(以下モニタ)を持っている医院があります。病院でよく見るあれですね。血圧なんかが計れるお高い機械です。
これは心電図付きで定価88万円・・・軽自動車が買えちゃいそうな御値段ですが、これでも安い方なのです。勿論、何もない歯科医院もありますし、とりあえず血圧がわかればいいやということで家庭用血圧計だけという歯科医院もあります。
安い(と言っても家庭用と違って30~40万円はします)モニタは動脈血酸素飽和度が計れるパルスオキシメータと血圧計しかついていませんが、無いよりはマシ。そして心電図がつくと更に値段が30~40万円跳ね上がります。
まぁ心電図わからない先生が心電図付きの高いモニタ買ったってしょうがないんですが…。
歯科医院のHPに「うちにはきちんとモニタがあります!」と、心電図のついていないモニタを写真で出していたら、心電図の事はよくわからない先生と思って間違いありません。
とは言うものの、一般的な歯科医師と比べて劣っている訳ではありません。歯学部でやる心電図の授業なんて「さわり程度」。ざっくりとした感覚では恐らく97~98%の歯科医師は心電図の本なんか買ったこともないですし、波形もわかりません。
心電図わからない歯科医師の方が圧倒的多数派です。
なので何かしらのモニタを買っているような歯科医院は、「何もありません」や「家庭用血圧計ならあります」に比べたらよっぽどまともなのです。
何故、歯科にモニタが普及しないのか
ちょっと脱線します。
取り敢えず勉強するよりも先にモニタを歯科医院に普及させようとしている先生もいますが、やはり本来は教育が先なんですよ。
・血圧・脈拍・SpO2はどのくらいまで許容できるのかわからない
・心電図は波形の見方がわからない
⇒わからないものを見てもしょうがないので「モニタの必要性を感じない」
例えモニタがあっても「意味がわからないからどういう状況なのか理解できない」歯科医師を増やしても仕方ないのです。
しかし、今後は間違いなく超高齢化社会となり超高齢患者の割合は増えます。高齢だけでもリスクなんですが、長生きするほど身体のあちこちにガタがきますので診る方もおっかなびっくりです。それこそデンタルチェアの上で義歯調整を待っている間に老衰で亡くなっていたってことも珍しくなくなるかもしれません。
そうなってくると、「この人は診られる、この人は診られない」や、「このくらいまでなら大丈夫だが此処から先は無理!」という線引きをするために、ある程度は心電図が読めないのなら外科処置どころか局所麻酔を使った処置ですら恐ろしくてやりたくないんですが、90歳超えてもインプラントやるような御時世ですから…。
異常を「異常」と認識できるように
血圧や心電図の波形を見て驚くのは、その血圧の値や心電図の波形が「怖い値・怖い波形」と認識しているから驚くのです。
例えば、お化け屋敷が怖いのは「お化け」という認識と「お化け=怖い」という関連付けができているからです。「お化け」の認識がない赤ちゃんは、お化け屋敷を怖がりません。
そういった赤ちゃん歯科医師は地雷がわからないので地雷原でも突き進みます。モニタがどんな数値を叩き出してもビックリするほど気にしません。
怖くないからです。
収縮期血圧が200超え、脈拍も100超えた状態でインプラント埋入しているのを見たことありますが、こっちの心臓が止まるかと思いました。モニタは一生懸命に「地雷原ですよ!」ってアラートをかき鳴らすんですが、全く気にしていなかったようです。
気にしないなら別にわざわざモニタ付けなくてもいいと思うんですがねえ。
そんな感じでやっちゃったのが、八重洲のインプラント死亡事故の先生で、パルスオキシメータの数値がだだ下がりしても気にしなかったようなので、間違いなくこの「お化けだと認識していなかった」パターンでしょう。
閑話休題
で、心電図なんですが、これが歯科医師には鬼門中の鬼門。
学生時代もろくに教育されませんし、口腔外科や歯科麻酔のように「必須なんですが中々…」という人も多いです。しかし「嫌い・わかりません」と言いたい気持ちもわかりますが、もう業務として必須なんですからイヤでもやらにゃいかんのですよ。
大抵の歯科学生教育では心電図はかなり適当なんですが、稀に凄い先の先まで細かく教える講座もあるとかで、それはそれで基礎固めが先だろと思っちゃうんですが…。
今回お薦めする本
両方とも著者は一緒ですが、この先生が書く本はとにかく読みやすくてわかりやすい。その中で初学者に向けて書いているのを選びました。
重複している部分もありますが、難しいことを考えずに、最低限「この心電図は正常なのか異常なのか」くらいはわかるようにしましょうという内容です。
もうそれなりに心電図がわかる人には物足りないでしょうが、「これから勉強を始めます」や、「卒後数年だがいまだに苦手…」という人達にはとてもいい本だと思います。
まとめ
自信がついたらもっと詳しい本を選んでみて下さい。お薦めもありますが此処から先は好みだと思います。心電図に限ったことではありませんが、上司が「これがいいよ」と薦めてくれるのが一番いい気もするんですが、「上司が諸々の本を持ってない」という凄い話も聞きますので…。
でも研修医や医局員になってからの心電図教育ってあまり聞かないんですよね。「自主性に任せる」みたいなとこばっかで。うちはきちんとやってますよ!て講座があったら是非教えてください。
追伸
あ、心電図付きモニタのある歯科医院でも心電図がわかる歯科医師とは限りませんのであしからず・・・。