愛媛は松山の西田亙氏という糖尿病内科の先生、歯科向けの本なども書かれており歯科業界の「その筋」には有名な方です。
先日、彼のTwitterが一部の歯科医師達の不興を買いまして・・・。
【月刊保団連増刊 診療情報提供書の書き方・その3】あまり大きな声では言えないのでありますが、歯医者さんが書かれる紹介状には、しばしば問題があるのでございます💦。
— 西田亙 (@WataruNishida) 2019年11月27日
【月刊保団連増刊 診療情報提供書の書き方・その5】一言で言えば、歯科医師の多くは「紹介状の書き方に慣れていない」。もちろん、医師の中にも「とんでも紹介状」を書く人間はいるが、その頻度はかなり低い。高齢者はともかく、最近の臨床研修を受けている医師であれば、まず普通に書ける。
— 西田亙 (@WataruNishida) 2019年11月27日
【月刊保団連増刊 診療情報提供書の書き方・その9】医科の世界では、このような指導は当たり前だが、歯科の場合、卒後の研修期間が短いため、十分な『文書トレーニング』を積む時間が、ないのだろうと、オジサンは読んでいる。やはり、ここにも「教育」の問題が隠れている。
— 西田亙 (@WataruNishida) 2019年11月27日
【月刊保団連増刊 診療情報提供書の書き方・その18】医科の場合は、「非専門家に向かって略称は決して使うな!」と研修医時代から、厳しく指導を受ける。これは学会発表であっても、紹介状であっても同じ事。ところが、歯医者さんは歯科略語を使いまくり杉・・💦
— 西田亙 (@WataruNishida) 2019年11月27日
【月刊保団連増刊 診療情報提供書の書き方・その19】だから、本書には略語問題についても、優しく指導ページが付いております。略語を使えば「誤解を招く」のではございません、「頭の中を疑われる」のでございます。相手の立場に立てないということは、教養の無さを意味するのだから・・。 pic.twitter.com/Z9w7vwNLc1
— 西田亙 (@WataruNishida) 2019年11月27日
「頭の中を疑われる」「教養がない」という内容に、
「きちんと書いているぞ!」「医科だって専門用語だらけの酷い先生はいる!」「何様だ!」
と一部で燃え上がりました・・・。
何が悪い 誰が悪い
正直に書きますと、今回は歯科業界の分が悪い。
前にも書きましたが、僕の浅くて狭い経験ですら見てきた照会状の酷さは目に余るものがあります。
西田氏も書かれているように、やはり教育が足りなすぎるのです。
歯科は研修が1年丸々大学でも「他科への依頼」すら書かずに終わるのがほとんどですから、医科への照会状を作成することなんかほぼありません。研修を終えた後、延々と照会状を書く機会もなく「初めて書いた照会状は開業後」という事態も普通にあります。
実際、勤めた歯科医院で院長から「書き方わからないからちょっと書いてくれない?」とお願いされたこともありました。今までどうしていたんでしょうね。
では研修後に大学残留した人達はどうかというと、実は一部を除き大学教員でも医科への照会状を出すことは少ないのです。助教くらいなら普通に「スケーリング」・「SRP」とか書いて送っている照会状を見たことがあります。
そんなこんなで世に出回っている照会状は、やはり医科から見たら酷い文書ばかりだと思いますよ。
西田氏が紹介してた本はどうなのよ?
「月刊保団連増刊 診療情報提供書の書き方」ですが・・・
編集は福岡県歯科保険協会ですが、歯科医師脳から脱しきれてない人が作っています。柔らかいウドンばかり食べているから中身もフニャフニャなんでしょうか。「適切」という名の「不適切」な表現ばかりで、「頭の中を疑い」ました。
「歯髄炎」「根尖性」「辺縁性」、何故これらがOKと思ったのか理解に苦しみます。「歯髄炎で歯の神経を取る処置を行います」と書きましょうとでも思っているのでしょうか。
教養ではなくセンスの問題です。
上記の「歯科業界よくある誤解 『対診書・照会状』」でも書きましたが再掲します。
医科の先生達が理解できるのはテレビCMに出てくるような単語だけ、つまり「齲蝕(う歯)」「歯周病」「抜歯」「インプラント」くらいだと思っていいです。ですから使う単語もこれ以外は極力使わない方が・・・
というか使うな。
「顎関節」は解剖学的にメジャーな名称なのでOK。
「歯石除去」もギリギリOKとして「歯の神経を取る処置」はアウトです。
えっ、アウトなの?と思った方もいるでしょうがアウトです。
理由は後段で。
よくわかる! 超簡単! サルでも書ける照会状!
【月刊保団連増刊 診療情報提供書の書き方・その20】こうして、様々な「基本事項のお作法」に続き、代表的疾患毎に具体的な提供書例が示される。1疾患ずつ、左ページに実例、右ページにコメントが設けられているが、このコメントが奮っている。 pic.twitter.com/7kuO8BAknC
— 西田亙 (@WataruNishida) 2019年11月27日
西田氏のTwitterにあった診療情報提供書の例文を書き出して添削してみます。
平素よりお世話になっております。
歯周炎にて右上6番(第一大臼歯)の抜歯が必要ですが、貴科にて糖尿病の治療を行っているとのことです。ご多忙のところ恐れ入りますが、情報の共有をお願いいたします。
血糖値のコントロール状況(HbA1c、空腹時血糖値)、投薬内容をお教え下さい。
抜歯は局所麻酔下(8万倍アドレナリン含有塩酸リドカイン)1.8ml✕1Aにて行い、術前に抗菌薬(サワシリン750mg/日)1日間、術後に(サワシリン750mg/日)3日間の投与予定です。
「にて」の多用がウザいですが、KO口腔外科の方針なのでしょうか…おっとまたKOの悪口になってしまった。
「平素よりお世話になっております。」
挨拶文不要。
「歯周炎にて右上6番(第一大臼歯)の抜歯が必要ですが」
抜歯理由・抜歯部位は不要。
歯周炎だろうが破折だろうが嚢胞だろうが便宜抜歯だろうが「とにかくどっか抜くんだろうな」くらいしか理解されません。
「貴科にて糖尿病の治療を行っているとのことです。」
病名不要。
「ご多忙のところ恐れ入りますが、情報の共有をお願いいたします。」
情報の「共有」って書き方は初めて見ました。
では添削した文書がどうなるかというと・・・
歯科治療予定ですが貴院通院中とのことでした。
患者の現状など情報提供をお願いいたします。
メインはこれだけです。簡単!
治療内容、局所麻酔薬、投薬は書かなくてもよいのか?
よいです。
【歯科から医科への情報提供】として
・歯科疾患病名と歯科治療内容予定の内容
・使用予定の局所麻酔薬、どの程度の侵襲的処置になるのか
・処方予定の抗菌薬、鎮痛剤の種類と量を具体的に記載しましょう
と書かれていますが、疾患病名・治療内容を書かれても医科の先生にはわからないのです。
「形成印象」「歯石除去」「歯周外科」「抜髄」「感根治」「歯周外科」「抜歯」「インプラント」etc...全て「歯科治療」にまとめてOK。
歯科の手技・侵襲がわからないため局所麻酔の要不要すらわかりません。同じく投薬も「その処置にはその抗菌薬を使うのだろう」とこれもスルーされます。
外科処置の詳細に関しては次回。
何故例文はあんなに細かく書いているのか?
理由は一つ。
歯科側がパーな場合です。
例えば、感染性心内膜炎の予防が必要な処置は何か、予防のためどの薬をどれくらい出すのか、いつ飲ませるのか、心内膜炎予防が必要な病態・状態は何か、それに対し局所麻酔薬はどれくらい使えるのか、普段のキシロカインじゃ駄目なのか、アドレナリン入りは使っていいのか、術後の投薬は何を使えばいいのか…
「あれも知らない、これも知らない、この患者にこの局所麻酔とか投薬はいいの?駄目なの?教えて教えて!」という歯科医師なら全て書くのでしょう。
しかしですね、局所麻酔薬と抗菌薬・鎮痛薬なんかは毎日毎日毎日毎日、何年も何年も何年も何年も使い続けてきたアイテムのはずです。禁忌や避けた方がよい症例くらい、聞くまでもなく覚えてもバチは当たらないと思いますけどね…。
局所麻酔・抗菌薬、誤りは指摘してくれるのか?
難しいと思います。
抗菌薬は部位や処置によってその求める抗菌スペクトルが異なりますし、局所麻酔だって処置内容・侵襲程度によって種類と必要量が異なります。 上に書いたように「その処置にはその抗菌薬・局所麻酔の種類とその量が必要なのだろう」としか思われないのです。
感染性心内膜炎予防の様に、致死的かつ医科もある程度同一な投薬に関しては「流石にフロモックスは止めろ」とか「何でいきなりジスロマックなんだよ」とかは言われるかもしれませんが・・・。
次回予告
今回は例文の「血糖値のコントロール状況(HbA1c、空腹時血糖値)、投薬内容をお教え下さい。」の一文には触れませんでした。
長くなったので次回は後半戦、「更に付け加える事項は?」という内容です。