歯科医師国家試験も結果が出ましたね。
受かった方はおめでとうございます。
落ちた方はまた来年。
来週から新年度ですがコロナショックでどうなることやら・・・。
僕はトイレットペーパーもティッシュも水も、元々半年分くらいはキープしていたので困りませんでしたが、世の中大変ですね・・・。
あとはマスク・・・
自己研鑽はどこまで積めばよいのか
前回はこちら。
前回の最後に書きましたが、一介の歯科医師は使用した薬剤でアレルギーのような有害事象が生じた場合、その診断ができなくてもよいのか…いやダメでしょ!というところで終わっていました。
自分が使用している薬剤なのに「そんな難しいこと、知らなくても仕方なくなくな~い?」という発想が驚きです。
という訳で「一介の歯科医師でも、自分の治療に関することは必ず勉強し続けなくてはならない」という当たり前の昔話をしましょう。
歯科医師が喘息患者にロキソニンを処方して死亡した話
「喘息はまた別の話だろ、しかもアスピリン喘息ってアレルギーですらないやんけそれ」と思った方もいるでしょうが、とりあえず読んでください。
喘息による死亡数は減少傾向ですが、まだまだ死亡する疾患です。
喘息死総数は2012年にようやく年間2000人を下回り、2016年には1454人まで減少しました。
さすがに今の歯科業界でNSAIDs不耐症・過敏症、いわゆる「アスピリン喘息」を知らない歯科医師はいないと信じたいですが、鎮痛薬と抗菌薬の違いがわからない歯科医師がいる世の中ですから…。
歯科界では有名な死亡事故の一つに、歯科医師が喘息患者に処方したロキソニンで喘息発作を生じ死亡した事例(1990年)があります。
今北産業(年がバレる…)で書くと
・患者は問診で喘息の既往は告げていた
・歯科医師はアスピリン喘息の概念を全く知らずロキソニンを処方
・患者は帰宅後に喘息発作を生じ窒息で死亡
もう3行だけでアウト。判決文も持っているのですがPDFでして、下記サイトが文字起こしされているのでそちらを参照してください。
全て実名で出ておりますが、判例なので・・・。
裁判官の判断も「(患者が)アスピリン喘息でないことを確定的に診断した後にロキソニンを投与すべき」など、医学的には無茶な内容もあります。そこは100歩譲って何箇所か抜粋しました。
その業務の特殊性からして、まず、予め当該薬剤に関する知識を当時の最先端に及ぶ範囲のものまで、薬剤に添付されている使用説明書にとどまらず他の医学文献等あらゆる手段を駆使して修得しておかなければならないといういわゆる研鑽義務を負っていることはいうまでもない
医師に課せられる義務のうち、研鑽義務については、医療の高度化に伴って医師が極度に専門化しているがために、薬剤の知識について医学の全専門分野でその最先端の知識を修得することが容易なことではなくなっていることは想像に難くないが、いやしくも人の生命及び健康を管理するという医師の業務の特殊性と薬剤が人体に与える副作用等の危険性に鑑みれば、右のような医師の専門化を理由として前記のような研鑽義務が軽減されることはない
本件事故当時、被告は、ロキソニンを投与するにあたり、その禁忌症であるアスピリン喘息に関する知識の修得に努めなければならないという歯科医師としての研鑽義務を負っていたものというべきであり、それにもかかわらず、前記認定のとおり被告はアスピリン喘息の概念やアスピリン喘息とロキソニンの関係につき何ら知らなかったのであるから、右研鑽義務を尽くしたものとは到底いえず、この点において既に被告のロキソニン投与には過失が認められることになる。
医師の業務の特殊性及び薬剤が人体に与える副作用等の危険性に鑑みれば、右認定のアスピリン喘息に関する知識が福岡市内の開業歯科医師の間では一般的に定着するに至っていたとはいえないなどの事情は被告に課せられていた研鑽義務を何ら軽減するものではないことは明らかである。
研鑽義務違反
やらかした歯科医師も、証言で呼ばれた歯科医師達(福岡歯科大学の口腔外科教授だった冨岡徳也氏など)も「福岡市の歯科医師にはアスピリン喘息の知識は一般的ではない(から無罪!)」という主張でした。
これを裁判所は「お前らの勉強不足!」と一刀両断。
医療従事者が知識をアップデートし続けるのは義務です義務。
ですから、薬剤によるアレルギーが生じても鑑別診断の一つとして頭に入っていなければならない。
「嘔吐・顔面蒼白・倦怠感・血圧低下は、いずれもアレルギーの特徴を表さないと思うのですが・・・」とか「街の開業医にそんな知識要求するなよ」というような知識・態度では、研鑽義務を果たしているとは到底いえません。
歯科医師が薬について自己研鑽をしない理由
事故をやらかした歯科医師は、薬について恐らく学生時代か卒業したくらいのポワポワした知識のまま、延々と惰性で処方を続けていたのでしょう。
この無責任さの根底には、歯科業界に脈々と受け継がれる2点の問題があります。
変な処方や考えを叩くと「何様だ!」と怒られる「自浄性の無さ」
そして「処方はするが、そもそも業界が全く薬に興味がない」
嘘だと思うでしょ。恐ろしいことに本当です。
こんな歯科医師はダメだ!
そんなこんなで「薬の知識」の自己研鑽という認識があまりに希薄すぎたのがこれまでの歯科業界。
そりゃいまだに
「いろはの『い』はイソジンの『い』!歯科医師」とか
「フロモックスが一番!歯科医師」とか
「強いは正義!グレースビット歯科医師」とか
「ニューキノロン+NSAIDs歯科医師」とか
「アセトアミノフェンなんか効かねぇよ歯科医師」とか
「上顎洞炎にはクラリスでしょ歯科医師」とか
「妊婦には局麻も投薬もできません歯科医師」とか
「腎が悪けりゃ肝代謝の薬、肝が悪けりゃ腎代謝の薬、両方悪かったら?そりゃ出すものがないなぁ歯科医師」とか
「痛い?でもあと○時間しないと次の鎮痛剤使えないから我慢して歯科医師」とか・・・
上記の歯科医師は開業医とかではなく、業界トップ大学口腔外科教授とか、毎度お馴染み歯科医療リスクマネジメント教授とか、困ったことに業界内トップ層にも幅広く存在しています。
リスクマネジメントもなにも、あなた達が教える事がリスクだっつーの。
大学教育は頑張ってほしいが、そこのトップ達がこれでは学生・研修医の教育も知れたもの。下が育つのを待つしかないが、育つ前に毒されてしまうと修正が非常に難しいのです。あー、早く世代交代してくれないかなぁ。
まとめ
前から何度も書いていますが、歯科の薬は数少ないので
自分が使う薬くらいは勉強しましょう。
それしかありません。
開業医レベルでしたら歯科業界で発行される薬の本では一番おすすめです。というか、これ以外は買わないほうが良い。数年に1回発刊されており、以前はおすすめできない単なるダメ本の1冊でしたが、神戸大学感染症内科の岩田先生が執筆に参加されてから「そこの項目だけは」非常に良くなりました。あとの部分は・・・妄信しないでください・・・。