やさぐれ歯科医院

白い天使クリスチャン・ゼル博士を目指す歯科医の戯言

巷のヘンテコ清潔不潔 歯周外科

巷で見かけたヘンテコ清潔不潔の実例を見てみましょう。

 

何故ヘンテコ思考になるのか?

大前提になるのは、僕らが扱う場所は「口の中」ということです。それさえ理解していればあんまりヘンテコな考えにならないはずですが、間違った方向に走ってしまう人は「口の中は汚いから可能な限りキレイにやらねば!」と無駄に熱い情熱をもってしまうのです。

あらかじめ書きますが、「うちの歯科医院はこれだけキレイにやってます!」てのは御自由にどうぞです。しかし、「〇〇にはこれだけの清潔環境が必須!」とか「気にしない奴はクソ!」のような書き方をする方にはこれはもう同業者としてツッコミを入れざるをえません。

 

歯周外科に必要な清潔不潔 それホント?

最初は業界誌から。

日本歯科評論 2012年7月号p38~46

「安全な歯周外科手術を実施するために必要な感染対策の基本」

                  関根歯科医院  関根聡

著者は卒後口腔外科に所属していたようです。まあ中に書いている事はそんなに間違ったことは書いていないのですが・・・題名が「歯周外科手術を実施するための」ってさえ書いていなければねぇ・・・。

 

・観血的処置における感染予防の重要性

「歯周外科手術が歯肉の切開や剥離を行い粘膜下の組織に触れる観血的処置であることから、術中は通常の歯科治療以上に感染予防に意識を払う必要がある。手術の際に使用する器具が滅菌されていることはもちろん、環境整備や術野周辺の管理~(中略)~より確実な感染対策を行うことが重要である。」

ぶ・・・ぶはははは!こりゃ嘘八百、本気で信じているなら宗教です。最初「だけ」は間違っていません。観血的処置であることは事実です。ただ、「歯周外科」くらいの外科処置なら抜歯(埋伏智歯抜歯含む)と同等で問題ありません。貧民街の青空診療でも感染率なんか変わりませんよ。 

「器具は全て滅菌されていなければならない!」ってのもよくある誤解です。前にも書きましたが、使い回すなら滅菌、ディスポはそのままでOK。

よってガーゼすら未滅菌でOKです

「未滅菌ガーゼ!?外科処置にそんなもん使えるか!」と怒る先生もいるでしょうが、だから口の中なんですって・・・密に縫合した創面は水も漏らさずくっついているとでも思っているのでしょうか。

しかし文章中の「確実な感染対策を行うことの重要性」とは一体なんなのでしょう。ま、まさか術後感染率が変わるとでも信じているとか???

病院口腔外科でも外来でやるような処置は「1つ」を除いてガッチガチにやる必要性は全くありません。清潔に気を配ったほうが良い1つとは・・・口腔外科をやったことがある人なら考えてみてください。

 

・清潔域と不潔域の概念

「手術に関わる器具・器材・装置等をすべて滅菌することは不可能である。しかし、滅菌レベル・消毒レベル・その他のレベルの器具が混在しては、せっかく滅菌した器具も意味がなくなってしまう。」

これも最初の1行だけは間違っていません。「清潔レベルが混在するのはいけない!」も典型的な誤解です。前回書いた「滅菌していない紙トレーに滅菌器具を載せるなんて!」と同じ、典型的な清潔教滅菌原理主義派ですね。

 

・滅菌ガウン、滅菌グローブ

「清潔域と不潔域をしっかりと区分するためにも、手術時は滅菌ガウンの着用が基本である。~(中略)~手洗いを行うことで手指に付着した細菌を減少させることができるが、完全に滅菌することは不可能であるため滅菌グローブを着用する。」

これも最初だけはOK。区分することは大切です。ただし、汚染された手であちこち触らないでね、ってレベルの区分です。滅菌ガウンと滅菌グローブですか。よっぽどお金をドブに捨てても世間の消費に貢献したいのでしょう。そんなに粉だらけのケーシーが心配なら洗濯したのにでも着替えればいいだけです。グローブもディスポの未滅菌で十分。

 

・術野周囲の消毒

「術野周囲の消毒では皮膚の常在菌が対象となる。グルコン酸クロルヘキシジンガーゼにて、口唇を中心に外側へ…」

出た!口腔周囲の消毒!無駄で無意味で単なる自己満足な術前処置の筆頭!

正直な話、僕にはこれをやっている先生達が何を目指しているのかさっぱりわかりません。完全に儀式です儀式。「お口の周りクルクル拭きます」の儀。でもやっている本人達は至極真面目なんですから困ったものです。

「少しでも菌を減らすことが大事なんだよ!」という先生は「杞憂」という言葉を調べてみては如何でしょうか。

 

 あなたの周りにもこんな人いませんか?

ツッコミどころが満載過ぎてきりがないので、かいつまんで紹介しました。

要は歯周外科程度でそんなにムキにならんでもいいのですが、外科処置には清潔な環境!それには厳密な患者消毒と器具滅菌!というヘンテコ思考に凝り固まってしまうと、このような「どうでもいいこと」に熱くなってしまいがちです。しかし、大学でも開業医でもこういう無駄な清潔に邁進する先生達は山のようにいるのが現状です。

医療に限りませんが、物事は如何に多くの無駄を削ぎ落としてシンプルな形にもっていくかだと思っています。