やさぐれ歯科医院

白い天使クリスチャン・ゼル博士を目指す歯科医の戯言

~サルでも書ける医科へのおてがみ教室~ 後編

前回は医科への照会状を「如何に簡素化するか」というお話で、最低限オブ最低限に切り詰めた書き方の紹介でした。

 

勘違いされている方もいるようですが、このシリーズは

「サルでも書ける」

が目的なので、そもそも「専門用語を医科への手紙に使う」ようなサル歯科医師を対象に書いています。きちんと書ける人は色々と書いてくださって結構よ!

 

という訳で相変わらず基本形は

歯科治療予定ですが貴院通院中とのことでした。

患者の現状など情報提供をお願いいたします。

です。

 

これで終わらせてはダメなのか?

追記が必要な場合があります。

以前、医科への手紙で「気をつける点」をいくつか記載しました。 

 

うち一つが「何を聞きたいのか」です。

患者のデータがほしいのか、これまでの経過が知りたいのか、処置に対する助言・忠告の類がほしいのか、聞きたい内容をしっかりはっきりくっきり書きます。

 

何のために何を聞きたいのか 

そもそも、照会状を出した理由は何なのか。

治療にあたり

1.どんな病気を抱えてどんな薬を処方されているのか

2.全身状態は良いのか悪いのか

3.血をサラサラにする薬や骨粗鬆症の薬を止めてよいのか

4.隠し玉の爆弾を抱えていないか

5.アドバイスあったらください・・・

 

教えてほしいのは大体こんなところですかね。

そりゃこちらも問診はしますが、僕の座右の銘の一つでもある「患者は嘘を付く」は常に念頭に置くべきで、例えば問診時の「お薬手帳確認」なんかは必須です。

「病院へ通って薬も貰っているが、お薬手帳なんかない」は相当な地雷患者。

できれば初診以降は二度と来ないように、上手いこと誘導してリリースしましょう。

 

どう聞けば(書けば)よいのか

1、2、4は基本形に含まれています。

特に4は「手術適応の大動脈瘤がありますが本人手術拒否で経過観察中です」の様な、爆発≒死亡の特大爆弾を抱えていたりするので要注意。大きな持病があっても本人が「歯科治療には関係ない」と思って無申告の場合があります。

 

しかし、治療内容も今後どうなるかもわからない、「5」も何に対してのアドバイスを貰えばいいのか、そうなるとますますどう聞いてよいのか・・・

そんなあなたにオールマイティーな追記を。

 

今後は抜歯など観血的処置の可能性もありますが、注意事項などありましたら御教示いただければ幸いです。

 

これで聞きたい項目1、2、4、5を内包し、治療がどう転んでも、それこそ転倒受傷でいきなり抜歯という事態が訪れてもOKです。

「抜歯する」とは書いていません。今後、何かしらの観血的処置をする「可能性」がある、と書いているだけなのです。患者から「手紙を読んだ医師から『抜歯するの?』て聞かれたんですが」と言われたら上記を説明しましょう。

人間いつ何時何が起こるかわかりません。備えあれば憂いなしです。

 

休薬したい時は?

「3」の抗凝固やBP製剤の休薬を聞きたい時はどうするんだよ、という皆様もいるでしょうが、開業医レベルでインプラントなどの「観血的処置」をしたいから「休薬」希望なら、

それはあなたの手に余る症例です。

大きな病院へ送りましょう。医科側から「休薬も可能です」と返答があっても送るべきです。「俺をそこらの開業医と一緒にするな!」と息巻く方は薬を止めずに処置を。それができないなら手を付けるべきではありません。

上記の理由で開業医レベルなら「3」を書く必要性を感じません。

 

じゃあ病院歯科レベルでは?

病院歯科レベルに勤めているのなら、流石にもうサルから進化してヒトになってもいいんじゃないでしょうか・・・。

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繰り返しますがこの内容、書き方のわからない歯科医師向けに最低限オブ最低限を目指した文章なので・・・逆に「抜歯を予定していますが◯◯(血をサラサラにする薬系)の中止は不要です」くらい書きなさいよ。

ほれ、ガイドラインでも読んどきなさい。 

 

◯◯できますか?は禁句

抜歯 or インプラント可能ですか?などのように「◯◯可能ですか?」は聞かないようにしましょう。医科は聞かれても侵襲の度合いなどがわからないため判断できません。また、これだけは忘れてはいけませんが、医科がいくら「OK!OK!」という返答でも、最終的にGOサインを出し症例に対して責任を持つのは、実際に手掛ける自分なのです。なので処置内容の可否を聞くことはNGなのです。

下記は歯科業界よくある誤解「対診書・照会状」に書いた内容です。

いくらかかりつけ医の先生が大丈夫なんじゃない?と言っても、やるかやらないかは自分が決めることです。ですから、治療中に何か重大なトラブルが生じても「大丈夫ってゆったや~ん!!!」と騒いではいけません。

医科からの御返事はあくまで判断材料をくれるだけだと思いましょう。

 

まとめ

・原文

平素よりお世話になっております。

歯周炎にて右上6番(第一大臼歯)の抜歯が必要ですが、貴科にて糖尿病の治療を行っているとのことです。ご多忙のところ恐れ入りますが、情報の共有をお願いいたします。

血糖値のコントロール状況(HbA1c、空腹時血糖値)、投薬内容をお教え下さい。

抜歯は局所麻酔下(8万倍アドレナリン含有塩酸リドカイン)1.8ml✕1Aにて行い、術前に抗菌薬(サワシリン750mg/日)1日間、術後に(サワシリン750mg/日)3日間の投与予定です。

 

・添削後

歯科治療予定ですが貴院通院中とのことでした。

患者の現状など情報提供をお願いいたします。

今後は抜歯など観血的処置の可能性もありますが、注意事項などありましたら御教示いただければ幸いです。

 

大分とシンプルになったのではないでしょうか。

敬語は・・・適当に省いてください。

これでほぼ全ての症例に対応できるはずです。

 

 

「月刊保団連増刊 診療情報提供書の書き方」、奇跡の作品にしては歯科側の不備が多すぎます。医科からもっとダメ出しをするべきだったでしょう。福岡県の歯科保険協会は次回改訂する時に「教養がない」とか「頭の中を疑う」とか言われないよう気合を入れて直してほしいものです。

 

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  • 作者:星 新一
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